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SAPビジネスケースのテンプレート:承認を遅らせない書き方

SAPのビジネスケースが止まるのは、技術ではなく書き方に原因があります。構成、必ず含めるべきコスト、CFOが信じるROIの示し方をまとめました。

電卓、ノート、老眼鏡の横に、ビジネスケースのアイコンを表示したノートパソコン
目次
  1. 承認する人のために書く
  2. エグゼクティブサマリーが勝負を決める
  3. 3人の読み手に向けて書く
  4. SAPビジネスケースのテンプレート
  5. 財務面の根拠
  6. 財務責任者が確認するコスト
  7. CFOが信じるROI、回収期間、効果
  8. RISE、GROW、AIがビジネスケースに与える変化
  9. ビジネスケースを潰す失敗
  10. よくある質問

SAPのビジネスケースが承認されるのは、意思決定者が課題、コスト、リターン、リスクを1ページで、自分たちの言葉で見渡せるときです。以下の7つのセクション構成を使い、少なくとも5年分のコストをすべて盛り込み、効果の前提は保守的に置き、CFO、IT部門、現場のそれぞれに向けて記述を分けてください。承認が止まるケースの多くは、アイデアではなく見せ方で失敗しています。

アイデアがしっかりしていても、承認が数週間、ときには数か月も長引くのを何度も見てきました。S/4HANAへの移行で、最初の提案が通らなかったことを覚えています。提案書にはシステムアーキテクチャ図が詰め込まれ、業務上の成果についてはほとんど書かれていませんでした。そこで冒頭を、出荷遅延の削減、在庫コストの低減、そしてチームがどう実行するかに組み替えました。CFOは一度の会議で承認しました。

テンプレートに入る前に、もう一点あります。ビジネスケースは導入パートナーに書かせないでください。パートナーのインセンティブは、プログラムを始めることです。あなたの役目は、やり遂げることです。こうして4,000万ドルのプログラムが、いつの間にか9,000万ドルのプログラムになります。

エグゼクティブサマリーが勝負を決める

1ページに収めてください。経営層が読むのは、そこだけかもしれません。

まず課題を数字で示します。提案内容は、技術的な詳細を抜いて1、2文で述べます。続いて、主な効果を数値付きで、シンプルなスケジュール、総投資額、主要なリスクとその対策を示します。

以前支援したある企業では、サマリーが「技術オブジェクト」や「Embedded HANA」といった用語で始まっていました。CFOは最初の段落で読むのをやめました。そこで「在庫削減による年間250万ドルのコスト削減」「受注処理が40%高速化」から始まる形に書き直しました。同じCFOがそのページを最後まで読み、その週のうちにプロジェクトを承認しました。

サマリーができたら、プロジェクトの外の人に渡してください。その人があなたに説明し返せるなら、機能しています。

3人の読み手に向けて書く

全員に同じ1つの版では通用しません。読み手を間違えたために、優れた提案が潰れるのを見てきました。

一つのビジネスケース、三人の読み手同じ計画でも、読み方は三通りあります。読み手ごとに記述を用意しないと、誰か一人が承認を止めます。
CFOと取締役会IT部門業務ユーザー
見るポイントCFOと取締役会メモなしで繰り返し言える数字IT部門現行システムと突き合わせた連携範囲業務ユーザー自分の1週間をタスク単位で描いた図
示すべきものCFOと取締役会年間削減額と回収期間、リスクは率直にIT部門本稼働後のサポート体制業務ユーザー変更前後の比較と、正直な研修時間
納得させる要素CFOと取締役会楽観より誠実さIT部門類似プロジェクトがどこでつまずいたかを理解している証拠業務ユーザー余分なクリック一つひとつへの正直な説明

CFOと取締役会が求めるのは、メモなしで繰り返し言える数字です。「年間200万ドルの削減、回収期間18か月」といった形です。リスクは率直に示してください。この読み手には、楽観より誠実さが効きます。

IT部門が求めるのは、現行システムと突き合わせた連携範囲、本稼働後のサポート体制、そして類似プロジェクトがどこでつまずいたかを理解している証拠です。

業務ユーザーが求めるのは、変更前後の1週間をタスク単位で描いた図と、研修時間についての正直な数字です。小さなクリックの増加でも、週に何千回も繰り返されれば現実の問題になります。

あるCFOに、会議の最中にビジネスケースを却下されたことがあります。彼女の疑問に一つも答えていなかったからです。私たちは、読み手ごとに1つずつ、3つのセクションに作り直し、それぞれを測定可能なKPIに結び付けました。技術計画は何も変わりませんでした。変わったのは、その伝え方だけです。

以下は私が使っている7つのセクションで、この順序で並べます。ある製造業の会社では、CFOがコストの詳細を23ページ目に埋もれた状態で見つけ、CIOは技術リスクをどこにも見つけられませんでした。承認は6か月遅れました。構造化した版では承認に2週間しかかからず、内容はほとんど変わっていませんでした。

セクション含めるべき内容
エグゼクティブサマリー数字で示した課題、提案内容、効果、総投資額、スケジュール、主要リスク
現状課題、現在のコスト、何もしない場合のコスト
提案するアプローチスコープ、モジュール、デプロイメントモデル(RISE、GROW、オンプレミス)、主要な連携
財務面の根拠5年間のコストと効果、ROI、回収期間、大規模プログラムではNPV
実施計画フェーズ、マイルストーン、体制、依存関係
リスク担当者と対策を明記した具体的なリスク
ガバナンススポンサー、ステアリングコミッティ、変更管理、延長承認のルール

アーキテクチャ図と設定の詳細は、付録に回してください。

財務責任者が確認するコスト

効果の弱さより、コストの漏れで潰れるビジネスケースの方が多いです。次のすべてを含めてください。

  1. ソフトウェア:オンプレミスならライセンスと年間サポート、RISEやGROWならサブスクリプション。
  2. 導入パートナーの費用。
  3. インフラ(自社で運用する場合)。RISEでは、SAPがサブスクリプションの中で運用します。
  4. 社内要員の工数。最も抜けやすい項目です。
  5. 研修とチェンジマネジメント。
  6. データ移行とクレンジング。
  7. 継続的なサポート。オンプレミスのSAP Enterprise Supportは、長らくライセンス価格の年間約22%でした。RISEとGROWでは、契約期間の全年度についてサブスクリプション費用を示してください。
  8. 本稼働後のハイパーケア。

項目7は、多くの財務責任者が最初に確認する点です。2年目から5年目が抜けていると、信頼はすぐに落ちます。私のSAP導入コストガイドには各項目の一般的なレンジを、CFO向けの契約レビューガイドにはパートナー側の論点をまとめています。

CFOが信じるROI、回収期間、効果

ROIは、純効果を総投資額で割ったものです。5年間の効果350万ドルに対してコストが200万ドルなら、純効果は150万ドル、つまり75%です。

回収期間は、投資額を年間の純キャッシュ効果で割ったものです。120万ドルのプロジェクトが年間40万ドルを生むなら、3年で回収できます。

NPVは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものです。取締役会から求められたら、財務チームを同席させてください。

効果は、計算過程を示して定量化します。

  • 在庫:在庫1,000万ドルを15%削減し、保管コスト率20%で計算すると、年間30万ドルの削減になります。
  • 処理時間:1日200回行う45分の作業を15分に短縮し、時給30ドルで計算すると、年間250営業日で約75万ドルの削減になります。

ランプアップを示してください。本稼働後1年目の効果は、通常、定常状態より低くなります。定量化できない効果は別のリストにまとめ、定量化できる効果が薄まらないようにします。

保守的にいきましょう。難しいSAPプロジェクトで承認を勝ち取った企業は、コストには徹底して正直で、効果には保守的でした。ある製造業のクライアントは、S/4HANAプロジェクトで最初に30%のROIを示しました。指摘を受けて、より現実的な18%に修正しました。CFOはその率直さを評価し、承認しました。

技術計画は何も変わりませんでした。変わったのは、その伝え方だけです。

ライセンスとサポートが、サブスクリプションに置き換わります。RISEとGROWはサブスクリプションなので、1年目のコストはオンプレミスのライセンス購入より低くなります。5年間の総額は、ユーザー数、スコープ、契約期間によって決まります。1年目、3年目、5年目を並べて示してください。

変わるのはキャッシュだけでなく、会計処理もです。IFRSでは、クラウド契約は自社が支配するソフトウェア資産ではなく、ソフトウェアを利用する権利を与えるものであることが多くあります。その場合、IFRS解釈指針委員会の2021年のアジェンダ決定により、コンフィギュレーションとカスタマイズの費用は、通常、サービスの提供を受けた時点で費用処理され、資産計上されません。これにより、プログラム費用の大部分が貸借対照表から損益計算書に移ることがあります。財務面の根拠を取締役会に出す前に、RISEまたはGROWの契約に対する会計処理を監査人と合意しておいてください。

クリーンコアは、長期のコストを変えます。リリース済みのインターフェースの上に構築した拡張は、設計にコストがかかりますが、アップグレードを越えて存続します。コアの改修は今日は安く済みますが、その後のアップグレードのたびに高くつきます。5年間のモデルでは、この差を示すべきです。特に、コアを引き続き改修できるPrivate Editionではそうです。

AIをビジネスケースに入れるのは、業務フロー単位の前提がある場合だけです。JouleなどのAI機能は、特定のタスクで時間を節約できます。AIによる効果は、すべて具体的な業務フロー、ユーザー数、説明のつく定着率に結び付けてください。CFOは毎週のように「AIが事業を変革する」という提案を目にしており、大きく割り引いて受け止めます。

何もしないことのコストを入れない。現行システムが年間50万ドルの手戻りを生んでいるなら、それはビジネスケースに入れるべきです。SAPへの投資額より大きいこともあります。

混乱を無視する。研修時間、カットオーバー時のダウンタイム、本稼働後最初の1か月の遅さは、いずれもリターンを下げます。

曖昧なリスク。「データの問題」はリスクではありません。「マスターデータの不一致により、最初の30日間に請求書が差し戻される」はリスクです。

詳細のない単一の本稼働日。遅延は、たいてい引き継ぎの部分で始まります。要件から設定へ、テストから承認へ、研修から準備完了へ。それを示してください。

会社の規模を無視する。私が関わったあるプロジェクトでは、小規模な販売会社が大企業のガバナンスプロセスをそのまま真似ました。毎週のステアリング会議が何時間もの生産性の損失になり、プロセスを絞り込むまで続きました。従業員200人未満なら、8〜10ページで十分です。大企業は、完全な財務モデリングと詳細なガバナンスのセクションを求めます。

承認の取得に6か月を費やした製造業のチームと仕事をしたことがあります。彼らはビジネスケースを4回修正しました。各版が別々の承認者に答え、ほかの承認者を無視していたからです。最初から3人の読み手すべてに向けて書いていれば、その時間の大半は節約できたでしょう。承認されたら、次の文書はプロジェクト憲章です。

SAPビジネスケースには何を含めるべきですか?

7つのセクションです。エグゼクティブサマリー、現状と何もしないことのコスト、提案するアプローチとデプロイメントモデル、ROIと回収期間を含む5年間の財務面の根拠、実施計画、担当者を明記した具体的なリスク、そしてガバナンスモデルです。技術的な詳細は付録に回してください。

SAPのビジネスケースが却下されるのはなぜですか?

たいていは、効果が曖昧か、コストが不完全だからです。特に、継続的なサポートや後年度のサブスクリプション費用が抜けています。ほかによくある原因は、リスクをぼかしていることと、財務、IT、業務のすべてを納得させる必要があるのに、1つの読み手に向けてしか書かれていないことです。

SAP導入のROIはどう計算しますか?

対象期間(通常は5年間)の純効果を、総投資額で割ります。ソフトウェアまたはサブスクリプション、パートナー費用、社内工数、研修、データ移行、継続的なサポート、ハイパーケアなど、すべてのコストを含めてください。効果は保守的に見積もり、本稼働後のランプアップを織り込みます。楽観的な35%より、現実的な18%の方が早く決着します。

RISE with SAPはビジネスケースをどう変えますか?

サブスクリプションがライセンスと年間サポートに置き換わるため、契約期間の各年度のコストを示す必要があります。インフラはSAPが運用するので、ハードウェア費用はなくなります。IFRSでは、クラウドサービスのコンフィギュレーション費用は、通常、資産計上ではなく費用処理されます。会計処理は早めに監査人と合意してください。

SAPビジネスケースはどのくらいの長さにすべきですか?

1ページのエグゼクティブサマリーに加えて、ミッドマーケット向けのプログラムなら15〜25ページ程度、大企業なら最大40ページです。それより長いものは付録に入れます。スポンサーがそこから説明するのに1時間かかるなら、長すぎます。

SAPビジネスケースにおける「何もしないことのコスト」とは何ですか?

現行システムのままでいることで、事業が失い続けるものです。手作業での回避策、突合の工数、レポートの遅れ、老朽化したシステムの保守、信頼できないデータに基づく判断などが含まれます。ECCをお使いなら、2027年以降の延長保守のコストも含めてください。

Noel D'Costa

執筆者

Noel D'Costa

航空、政府、金融、小売、製造の各分野で、SAPとOracleのERPプログラムに25年携わってきました。財務出身です。経営陣とともに変革の範囲を誠実に定め、難航するプログラムを立て直し、本稼働後の最初の1年を乗り越えるシステムを構築します。

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