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SAPの導入とロールアウト:違いと選び方

ロールアウトは、規模の小さい導入ではありません。両者の違い、それぞれが向く場面、そしてロールアウトが技術ではなく、ローカライゼーションと人の面で失敗する理由を解説します。

あごに手を当てて考える男性と、SAPは導入かロールアウトかを問うキャプション
目次
  1. それぞれの内容
  2. それぞれが適している場面
  3. ロールアウトがつまずく場面
  4. 現地チームに押しつけられたテンプレート
  5. テストで見つかるローカライゼーション
  6. 揃わないマスタデータ
  7. 現地ではなくグローバルのシステムを説明するトレーニング
  8. テンプレートがRISEやGROWで動く場合に変わること
  9. ロールアウトの準備チェックリスト
  10. 2つの事例
  11. よくある質問

SAPの導入は、システムがない場所にシステムを構築することです。ロールアウトは、グループのどこかですでに稼働しているSAPシステムを、新しい国、法人、事業部門に広げることです。多くの人は、ロールアウトを規模の小さい導入だと考えています。この思い込みが、この種のプログラムでは、どの技術的な判断よりも多くのやり直しを生んでいます。

以前、地域向けのSAPロールアウトはプラグアンドプレイで進むと、CFOが思い込むのをそのままにしてしまったことがあります。リスクは説明しましたが、強くは主張しませんでした。グローバルテンプレートを使っていたため、彼は、どの拠点もさほど苦労せずに揃うと考えていたのです。実際はそうなりませんでした。ある地域では、追加の税務処理が必要でした。別の地域では、現地の法律により、従業員データに必須項目がありました。コピー&ペーストで済むように見えた作業に、実際のカスタマイズが必要だったのです。

つまり、この選択によって、人員の配置、予算、作業の進め方が変わります。選択を誤っても、システムは本稼働を迎えるかもしれません。ただし、計画していた形ではなくなります。

導入は、ゼロから始まります。スコープを定め、プロセスをマッピングし、設定し、データを移行し、連携を構築します。組織にSAPがない場合や、レガシーシステムを丸ごと置き換える場合に当てはまります。

ロールアウトは、すでに機能している設計を再利用します。プロセス、設定、マスタデータの標準です。作業の中身は、そのテンプレートと、新しい拠点に必要なものとの差分です。税務、法定報告、通貨、言語、現地の連携、そして実際に使う人たちです。

ロールアウトがグローバルテンプレートに加えるものロールアウトは、すでに機能している設計から始まります。作業の大半とリスクの大半は、その上に重なる現地のレイヤーにあります。
  1. 現地のユーザー現地のプロセスに合わせ、現地の言語で行うトレーニング
  2. 現地の連携新しい国の銀行、税務申告、物流のシステム
  3. 現地のデータグローバル標準にマッピングした顧客、仕入先、品目のデータ
  4. 現地の要件税務、法定報告、必須項目。対象は要件のみで、要望は含みません
  5. グローバルテンプレートすでに機能しているプロセス、設定、マスタデータの標準

両者を実務で比べると、次のとおりです。

項目SAP導入SAPロールアウト
出発点SAPがない、またはレガシーシステムを置き換える本社または別の法人でSAPがすでに稼働している
設計新規の設計、Fit-to-Standard管理された現地の差異を伴うグローバルテンプレート
一般的な期間12〜24か月、大規模グループではさらに長い1拠点あたり6〜12か月
主なリスクすべてのワークストリームにわたる未知の要素ローカライゼーションと現地の準備状況
データレガシーシステムからの全件ロードグローバルのマスタデータ標準にマッピングした現地データ
テストフルサイクル:単体、結合、UAT、パフォーマンスローカライゼーション、現地インターフェース、UAT
チェンジマネジメントゼロから始める本格的なプログラム既存の資料を現地のチーム向けに調整

導入が適しているのは、次の場合です。

  1. 組織がSAPを一度も使ったことがない。
  2. 現行システムが機能不全で、全体を置き換える必要がある。
  3. 合併、買収、または新しい事業モデルにより、従来の設計が合わなくなった。
  4. 業界ソリューションを初めて導入する。たとえば、SAP for UtilitiesやSAP for Public Sectorなどです。
  5. 必要なスコープをカバーする既存のテンプレートがない。

導入は時間がかかり、初期費用も高くなります。その代わり、自社の事業に合った設計と、あらゆる選択の背景を理解しているチームが手に入ります。要件定義を急いだ企業は、あとでミスの修正に30〜50%余分に費やすことになります。私は、これを何度も目にしてきました。

ロールアウトが適しているのは、グループ内のどこかでSAPがすでにうまく稼働していて、中核プロセスが安定しており、テンプレートが、壊れることなく現地の要件を受け入れられるだけの柔軟性を備えている場合です。この3つのうち、どれか1つでも怪しいなら、どこかに展開する前にテンプレートを直してください。

技術面は、たいてい予定どおりに終わります。遅れが出るのは、人の面と、新しい国では成り立たない前提からです。

現地チームに押しつけられたテンプレート

北米でうまくいったものが、アジアや中東では通用しないことがあります。税の構造、承認ワークフロー、データ入力のルールが異なるからです。以前、欧州のテンプレートが中東でも使えると考えていた企業と、仕事をしたことがあります。遅れ、書き直し、そして多くの緊張を生みました。業務プロセスが、単純に違いすぎたのです。

解決策は、新しい拠点に、意思決定の権限を持つ業務オーナーを置くことです。理解していない土地のプロセスを本社のチームが決めると、現地のユーザーに触れた途端に破綻する設計が生まれます。

テストで見つかるローカライゼーション

税務処理、法定レポート、必須のデータ項目は、設計を始める前に確認しておく必要があります。以前支援したクライアントでは、税務設定のわずかな違いのせいで、本稼働が1か月以上遅れました。技術の問題ではありません。現地のニーズを、十分早い段階で誰も検証していなかったのです。

揃わないマスタデータ

品目コード、顧客番号、仕入先分類は、グローバル標準に合わせる必要があります。本稼働後に見つかった不一致は、修正に費用がかかり、連結レポートも壊します。現地データをグローバルモデルにマッピングするのは、UATではなく、設計の段階で行ってください。

現地ではなくグローバルのシステムを説明するトレーニング

ロールアウトでは、最初の導入時のトレーニングを使い回しがちです。その資料が説明しているのは、本社でシステムがどう動くかです。現地での適合については説明していません。自分たちのバージョンがなぜ違うのかを理解していないユーザーは、回避策を作り始めます。

上記のフレームワークは、引き続き当てはまります。テンプレートの導入モデルによって、コストの考え方と拡張のルールの一部が変わります。

RISE with SAP(Private Edition)の場合、新しい国を追加するたびに、フルユーザー相当(FUE)で価格が決まるサブスクリプションにユーザーが加わります。コストは予測しやすく、インフラの作業も減ります。ただしコストは本稼働後も発生し続けるため、初年度だけでなく、数年間で選択肢を比較してください。

GROW with SAP(Public Edition)の場合、まず、その国向けのローカルバージョンをSAPが提供しているかを確認してください。SAPは2024年2月時点で、59の国と地域向けのローカルバージョンを挙げていました。それ以外の国では、SAPの「セルフサービス型ローカライゼーション」プログラムにより、パートナーがConfiguration Localization Toolを使ってカスタマーローカルバージョンを構築できます。現時点ではアーリーアダプター向けの経路です(SAP Learning)。どちらにも当てはまらないなら、それはロールアウトの問題ではなく、スコーピングの問題です。

クリーンコアは、現地のあらゆる逸脱に当てはまります。Public Editionが受け入れる拡張は、リリース済みのインターフェースを通じたものだけです。Private Editionではガバナンス上の選択ですが、許可する現地の修正は、アップグレードのたびに再テストするオブジェクトがひとつ増えることを意味し、それが国の数だけ掛け算になります。私が徹底している規律は単純です。逸脱を正当化できるのは、税法、法定報告、規制上の義務です。現地の要望は正当化しません。

技術面は、たいてい予定どおりに終わります。遅れが出るのは、現地のチームの準備が整っていないとき、あるいは最初の導入時の前提が新しい国では成り立たないときです。

次の国の日程を確約する前に、以下のそれぞれで「はい」を取ってください。それぞれに責任者がいます。

  1. 現地の業務オーナー(新しい国):氏名が決まっており、現地の設計を承認する権限を持っている。
  2. 税務・法務アドバイザー:税務、法定報告、必須のデータ項目が、設計の開始前に文書化されている。
  3. テンプレートオーナー(本社):提案された逸脱のリスト。それぞれに、要件か要望かを明記している。
  4. データリード:現地の顧客、仕入先、品目のデータが、グローバル標準にマッピングされている。
  5. 連携リード:接続が必要な現地システム(銀行、税務申告、物流など)が特定され、スコープが定まっている。
  6. チェンジリード:トレーニングが、現地のプロセスに合わせ、現地の言語で、現地の例を使って調整されている。
  7. プログラムディレクター:1度に1拠点ずつ。直前の本稼働で得た教訓を、次に反映している。

私のスコープテンプレートのガイドは項目3の助けになり、プロジェクト憲章のガイドは、意思決定の権限を文書にどう書き残すかを扱っています。

エジプトでのグリーンフィールド導入。エジプトに拠点を置く地域の製造会社は、古くて分断されたシステムと、多くの手作業から抜け出せずにいました。サプライチェーン、生産の実績管理、財務報告は、互いに連携していませんでした。同社はSAP S/4HANAをゼロから導入し、財務、調達、生産をひとつのシステムでつなぎました。サプライチェーン計画を自動化し、本稼働の前に4か国で5,000人を超える従業員をトレーニングしました。急ぐことはしませんでした。運用コストを25%、予測の誤差を35%削減しました。

15市場へのロールアウト。ある小売企業は、本社ではすでにSAP S/4HANAが稼働しており、これを新たな15市場に展開する必要がありました。市場ごとに、税制、通貨、商慣行が異なっていました。同社はグローバルテンプレートから出発し、拠点ごとに調整し、一斉ではなく2年かけて段階的にロールアウトし、地域ごとにトレーニングを整えました。その結果、財務連結が速くなり、店舗全体の在庫をリアルタイムで追跡できるようになり、グループレベルのレポートの精度が20%向上しました。

一方は、存在しないものを築くことでした。もう一方は、機能しているものを広げることでした。どちらもプラグアンドプレイではありませんでした。前者のタイプを始めようとしているなら、SAP導入を正しく始める方法のガイドが出発点になります。

SAP導入とSAPロールアウトの違いは何ですか?

導入は、SAPをゼロから構築します。要件定義、プロセス設計、設定、データ移行、連携、テスト、本稼働までを含みます。ロールアウトは、既存のSAPシステムとそのグローバルテンプレートを、新しい国、法人、事業部門に広げます。ロールアウトの作業とは、テンプレートと現地のニーズとの差分です。税務、法定報告、言語、現地の連携、トレーニングです。

企業はどのような場合に、ロールアウトではなく導入を選ぶべきですか?

拡張できるSAPがない場合や、レガシーシステムを丸ごと置き換える場合は、導入を選びます。事業モデルが変わって既存の設計が合わなくなった場合や、必要なスコープをカバーするテンプレートがない場合も、導入のほうが適しています。合わないテンプレートを無理にロールアウトすると、クリーンな設計よりも多くのやり直しが発生します。

SAPロールアウトには、導入と比べてどのくらいの期間がかかりますか?

導入には通常12〜24か月かかり、大規模グループではそれ以上です。ロールアウトは通常、ローカライゼーション、連携、データによって、1拠点あたり6〜12か月です。最も大きな変数は、設計を始める前に現地の要件をどれだけ検証できていたかです。

複数国にまたがるSAPロールアウトで、最も大きな課題は何ですか?

繰り返し出てくるのは4つです。現地チームの意見を聞かずに押しつけられるテンプレート。テストの段階で見つかるローカライゼーション要件。グローバル標準に合わないマスタデータ。現地ではなくグローバルのシステムを説明するトレーニング。ほとんどは、技術ではなく、人と計画の問題です。

SAPロールアウトは、常に導入全体よりも安く済みますか?

たいていは安く済みます。設計がすでに存在し、実証されているからです。ただし、税務や給与のルールが複雑な国、現地の連携が複数必要な国、データの質が低い国では、その差は縮まります。RISE with SAPでは、新しい国ごとのサブスクリプションが本稼働後も続くため、コストは数年間で比較してください。

SAPロールアウトでは、グローバルテンプレートはどう機能しますか?

グローバルテンプレートは、グループの標準プロセスについて、文書化され、設定済みのSAP設計です。ロールアウトはそれを出発点とし、本当に必要な現地の変更だけを加えます。逸脱はアップグレードのたびに保守の負担を生むため、きちんと管理してください。税法などの要件は逸脱を正当化し、要望は正当化しません。

Noel D'Costa

執筆者

Noel D'Costa

航空、政府、金融、小売、製造の各分野で、SAPとOracleのERPプログラムに25年携わってきました。財務出身です。経営陣とともに変革の範囲を誠実に定め、難航するプログラムを立て直し、本稼働後の最初の1年を乗り越えるシステムを構築します。

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